気仙沼の報告 その17

  平成25年7月15日

●平成25年7月15日 8時 気仙沼出発。
今日は、曇り空。小雨もぽつぽつ降り気温は20度を切っていて、肌寒く感じます。

◎大船渡市 三陸町の仮設住宅
 大船渡市三陸町の仮設住宅(約80世帯)に9時前に到着。
この仮設住宅は野球場に建てられたもので、敷地内には、高齢者施設と、被災した高齢者の相談や支援を行うサポートセンターがあります。
 毎朝9時15分から、仮設住宅集会所で、住民の皆さんがラジオ体操をするということで、ご一緒させて頂くことにしました。
20人くらいの方が集まったでしょうか。皆さん親しげに挨拶を交わされます。
飛び入り参加の私たちも簡単に自己紹介。ラジオ体操の第1と第2で、体を動かします。
私も何十年ぶりかに体操をしました。結構体を使うものなんですね。すっきりしました。

その後、高齢者施設とサポートセンターを見学させて頂きました。
90歳以上のご高齢の方が多いようです。
その後、仮設にお住いの方たちのお宅を訪問させて頂き、お話を伺いました。

1人目はM.Kさん(85歳)のお宅です。お部屋にはお孫さんの結婚式の写真。
今あるのは全て震災後に撮った写真です。私たちのために朝から「がんづき」という郷土菓子を焼いてくださっていました。
黒砂糖の味が素朴でおいしいです。

部屋の片隅に、ご主人の遺影とお位牌が置いてありました。ご主人は津波で亡くなったのです。
震災の日、「(隣の部屋に、ラジオ用の)乾電池取りに行ってくる」
それが最後のことばとなりました。
次の瞬間には津波が凄まじい勢いで瓦礫や自動車などと一緒に流れ込んできます。M.Kさんは咄嗟(とっさ)に柱にしがみつきました。その後 瓦礫の下から引っ張り出されて病院に搬送されます。

M.Kさんは当時のことを非常に鮮明に覚えていらして、極めて冷静に、落ち着いてお話しくださいました。
当日、津波が来ても避難しなかったことを今でも悔やんでおられました。
子供たちにも、なぜ逃げなかったのかと叱られたそうです。
今の生活は毎日楽しいと仰います。
普通に考えれば非常に悲惨な状況です。
「毎日楽しい」なんて決して言えない筈です。
それを敢えて「楽しい」と言い切るM.Kさん・・・。
全てを震災で失った人が、これからの人生をしっかり生き抜いて行こうという強い覚悟と潔さを感じました。
M.Kさんのお宅には、震災前からお付き合いのあった方たち(男性2名)も遊びに来られていました。
皆さん、幼馴染なのでしょうね。
しょっちゅう笑い声が起きます。初対面の私たちに対しても、気さくに話しかけてくださいます。

その後、その男性の仮設のお宅も訪問させて頂きました。
4畳半の部屋1つと台所・バス・トイレだけです。
30年間習っているという書道の作品を見せてくださいました。男性的な勢いのある見事な書体です。
台所の床(幅60センチ、長さ180センチくらい)で作品を書かれるそうです。
書道がひとつの心の支えなのでしょうね。

パッチワークをされている方(女性)のお宅にもお邪魔しました。
1つの作品を完成するのに2か月くらい要するそうです。可愛らしい手提げ袋を製作中とのことでした。
絵手紙も習っていてその作品もたくさん見せて頂きました。
季節の花や野菜・果物が色鮮やかに描かれています。こんな絵手紙をもらえたら嬉しいでしょうね。

◎陸前高田市 仮設住宅(O.Fさん)
 昼食後、O.Fさんのお宅に訪問しました。訪問はこれで3回目です。
お正月には少しお元気がなかったけれど、すっかり元気を取り戻され、気力が充実されているのを感じます。
これまでに2000人ものボランティアを受け入れてきたそうです。
日本国内はおろか、外国からも大勢訪れています。

 仮設の住民たちに自分の土地を無償で貸している「はまらっせん農園」は、皆さんの心の拠り所となっています。
 農園は高台にあって、遠くに海が見晴らせます。
震災の日、あちらから津波は押し寄せ、この高台の下で止まったのでした。
高台の下にあったO.Fさんの家も流され、O.Fさんご本人も津波にのまれました。
崖に生えている木苺の蔓をよじ登ろうとして、手のひらは肉まで削れ血だらけです。
もうだめだと思った時に腕を引っ張り上げられて助かります。
 O.Fさんの土地には40人以上の方のご遺体や何台もの自動車が流れついてきたそうです。
 高台にはベンチがあります。そのベンチで毎日海を眺めている90歳ぐらいの老婦人がいるそうです。
息子さんのご遺体は高台の下で発見されました。
高台から息子さんの亡くなった場所を見下ろしていると心が落ち着くのだそうです。

震災後の時の流れは、人によってさまざまです。
震災から今日までの 時間の長さも。
震災から今日までの 流れの速さも。

未来に向かって、必死に前に進もうとする人。
時の前に立ち尽し、思い出の中に佇んで(たたずんで)いる人。

これから迎える時は、どのような「時」になるのでしょうか。
全ての人に共通の 同じ時の流れというものは、ないのかもしれません。

今回も多くの出会いがありました。いろいろに考えさせられた2日間でした。

全ての企画を立て、滞りなく遂行してくださったS.Tさん。ありがとうございました。

東京からの往復夜行バスで、被災地訪問に同行した学生N.Aさん、Y.Sさん、お疲れ様でした。