気仙沼の報告 その18

  平成25年8月11日

●平成25年8月11日 8時39分 気仙沼着。

一ノ関から気仙沼までの車窓には、緑の田畑や夏の色鮮やかな草花、勢いよく生い茂った雑草などが見えています。
ここ数日の大雨で川は泥水で増水していましたが、気仙沼はいい天気です。
暑いというより湿度が高くてムシムシしています。
今回はM.Kさんが川崎から参加してくださいました。
いつもどおり、岩手県県職員S.Tさんの車で出発です。

◎気仙沼市 階上(はしかみ)公民館
 今月はK.Sさんのご都合が悪く、水墨画教室はお休み。その代わりに写経教室を開きます。
 講師はS.Tさんです。
 S.Tさんは毎夏9日間、出羽三山で修験道の修行をされていて、今年で7回目になるそうです。 慰霊の時に奏上される祓詞(はらえことば)や般若心経、真言は力強く、その場を清め、御霊を慰めるかのように響き渡ります。
 修行されている方でないと出せない言霊です。
 会場の公民館について、早速机の配置などを始めます。
 今日の参加者は15名くらいとのことで、教室型に並べて行きます。
 10時に開始。S.Tさんが20分くらい、般若心経の意味等を講義され、それから写経の開始です。
 約1時間、皆さん、黙って真剣に書いていらっしゃいます。 
 今日11日は震災から2年5か月めの月命日。
 東日本大震災で犠牲になられた方たちへの思いと、これからの復興への祈りを込めていらっしゃるのでしょうか。
書き終わった後の皆さんのお顔は清々しく(すがすがしく)、とても充実していらっしゃるようにお見受けしました。

◎気仙沼市 船乗りのKさん
 教室の後、階上公民館で管理人をされているKさんと、1時間くらい事務所でおしゃべりをしました。
 Kさんは80歳ですが、とても陽気でおしゃべり好きです。
 戦災孤児で、東京に丁稚奉公(でっちぼうこう)に出られました。
進学を希望していましたが、片親であることを理由に入学許可が下りなかったのだそうです。
東京では、靴磨きや看板描き、水産加工工場で働いたりしました。靴磨きをしていて顎を蹴られたこともあるそうです。
「東京のこと、詳しいよ」
どこそこのガード下が、とか、あの通りには、とか、細々したことをよく御存じです。
その後、遠洋漁業の船乗りになって世界中を回られました。
「北朝鮮以外にはみんな行ったな」

遠洋漁業での航海は、帰るまでに2年以上のことも。
生まれたばかりの娘さんを残して出航し、帰ってきた時にはもう2歳。
「でも、ちゃんと俺のことわかんのね。追っかけてきたよ」
船の進路は、星の動き、太陽の位置、そして、サイン、コサイン、タンジェントなどの関数を使って計算するそうです。笑いながら、
「船乗りは、馬鹿じゃできないよ」
本当にそうですね! 

お子さんは3人いらっしゃり、お孫さんもおられるそうです。

震災の時は車で隣の南三陸町から気仙沼に帰る途中でした。
バックミラーで、後ろに迫る津波を見ながら、また、後続の車が橋もろとも落ちていくのを見ながら、無我夢中で車を走らせたと言います。まさに危機一髪です。
「家に着いたときは 膝がガクガクしたよ」
幸い、ご自宅の損壊もありませんでした。ご近所の方たちのために、庭に幾つも穴を掘って板を渡し、屋根をつけて臨時のトイレを作り、解放されたそうです。
「今の若い人たちは感謝の気持ちがないね」
と苦言も。

阪神淡路大震災の時には、ご自分の船で救援物資を運び、配られたと言います。
「そのお蔭で(今回の震災で)助かったんだかな」
Kさんの波乱万丈の人生経験を聞いていると、あっと言う間に時間が経ってしまいます。
「また俺のいるときに来いよ」
は~い、是非また寄らせて頂きますね。楽しいひと時でした。
普通の人よりも遥かに苦労の多い人生だった筈です。なのに、こんなに明るく強く優しいKさん。学ぶことの多い時間でした。
Kさんが手すさびに書いた詩を頂きました。航海時代、故郷を想う気持ちがさらりと歌われています。いかにも海の男っていう感じです。

波また波 雲また雲よ
果てしなく広がる大海原に
燃える希望と憧れに
微笑む人を抱きつつ
波路はるかになつかしの
故国に急ぐ舩足(ふなあし)が 
そぞろ心にもどかしや

夜の屋台の酔いどれ仲間
なやみあるなら語ろじゃないか
俺も故郷をはなれて三年(みとせ)
リアス恋しや瞼(まぶた)に浮かぶ
墨絵ぼかしの岩井崎

◎気仙沼市 リアス・アーク美術館
 昼食後、震災の遺品や写真などを展示しているリアス・アーク美術館へ。
写真、被災した家具や生活用品、歴史資料などが展示されています。被災物(携帯電話や炊飯器など)に添えられた被災者のことばから、ふりしぼるような心の声が聞こえてくるようです。
震災からまだ2年5か月。なくされた家族・家・故郷・思い出・夢…。心の傷はまだまだ生々しく胸の中に疼(うず)いているのです。

◎気仙沼市 早馬神社
 1日の締めくくりは早馬神社さんです。
今日同行されたM.Kさんは、宮司さんたちのお話をお聞きするのを、とても楽しみにされていました。
 前日は34度と、気仙沼ではめったにない暑さだったそうで、宮司さんたちは少しお疲れのご様子でした。
参拝後、神社の境内に蜩(ひぐらし)の声が降り注ぎます。
海のほうから、傾きかけた太陽の光が木々の間を漏れてきます。
東北の夏は、もう終わりかけているのでしょうか。やっぱり東北って 夏が短いんですね。

車は一路、一ノ関へ。

来るたびに、新しい方との出会いがあります。
そのたびに、いつかまた再会したいと思ってしまいます。
細くても、永く、いつまでも、縁がつながっていますように。
そんな想いを気仙沼に残し、いく夏の夕暮れに別れを告げました。

今日も1日、S.Tさん、K.Mさん、ありがとうございました。